【6/11】ムール貝について考える

私はムール貝が好きです。ハマグリほど上品ではありませんが、比較的安価で、白ワインによく合います。そのムール貝を少し整理してみると、その生活態度が立派で、私たち人間の模範となるところがあります。正しくはムラサキイガイと呼び、学名をMytilus edulisと言います。フジツボ、牡蠣などと共に「付着生物」と呼ばれ、どこかにペタンとくっついて生活しています。1920年代に外国船の船底にくっついて来たのが最初らしく、船底や岩に非常に強く付着し、強い波を受けたぐらいでは全く動じません。海の動物にとってどこかにピッタリと付着しているのは実に都合がよくて、陸上と違って海の中は激しい海流がありますので、その海流で餌が流されてきます。従って自分で餌を探しに行かなくても、どこかにくっついていて口だけ開けておけば、餌が飛び込んでくるという訳です。空気はあまりに軽くて物を運ぶだけの力はありませんし、土はあまりにじっとしていて物を運びません。それに比べて水は重いのに移動しますから、何でも運ぶわけであり、そこをムール貝は利用して、普通は岩にとりつきます。

アロンアルファを使わずとも、しっかり付着していて、ムール貝が岩にとりつく様子は実に見事です。まず貝の本体の中から屈曲性のある足を出しまして、その足の先端で自分がこれから取り付こうとする岩の表面を慎重に探索します。「毒性のものはないか?汚れていないか?」と調べるわけです。それでOKになると、足の先で岩の表面を擦り、綺麗にします。さらに吸盤のような形のものを出して岩の表面に真空を作ります。その中に「接着剤」になる原料を吹き出しまして、これは泡状でありタンパク質で出来ています。すべてがOKなら硬化剤を分泌して、その接着剤の原料を固めて完成します。できあがると足をはずしまして岩に接着している「足糸」を残し、足はまた別の場所を探して接着作業をしてそこにも「足糸」を残します。かくして作業が完了しますと何本か足糸が岩から自分の体につながり、それでしっかりと固定されるという訳です。ムール貝の料理をするときは、この足糸を取らなければならなく、硬いタンパク質ですから筋のようで食べるのには向いていません。

近代科学が誕生して以来、人間は膨大な研究をして「ものとものを付ける」ということを試みてきましたが、「接着」は日常生活でも、ご飯粒でつける、ヤマト糊を使う、セメダイン、ボンド、二液性のエポキシ接着剤、そしてアロンアルファと用途によって適当な接着剤が揃ってきました。接着の手順は、以下のように整理できます。
①接着表面に反応性のあるものが無いこと・・・接着してから材料を劣化させるから
②接着表面が汚れていないこと・・・汚れが本体と接着剤の間に入ってはがれるから
③接着表面が少しざらついていること・・・接着剤が凸凹に入り込んでアンカー効果が出るから
④接着する時に接着面の空気を追い出すこと・・凹部に接着剤が入らないから
⑤粘度の低いものが良い・・・凹部に接着剤が入るため
⑥少し空間がある方が良い・・・硬くなった後の歪みが少ないから
⑦最後に硬くした方が良い・・・接着面の材料としての性質が良くなるから
⑧構造は複雑な方が良い・・・接着面がさまざまだから

良い接着をするためにはこのように8つもの条件があるのですが、そのことは判っていたとしても、人工的に作られる接着剤や接着技術にはこの8つを全部できるものは現れていません。アロンアルファはかなり理想的な接着剤ですが⑥と⑧が未達成なのです。だから、人間が接着したものは、その本来の接着強度の1000分の1程度ではないかと言われていまして、それほど性能はまだまだなのであります。ところがムール貝はすごい!この8つを全部やっているのです。足を伸ばして表面を確かめ、掃除をし、吸盤を使って真空を作り、前駆体を出し、泡にして、固め、おまけにムール貝が出す接着用のタンパク質は非常に複雑な構造をしています。

このムール貝の接着の様子と構造を見て、人間による科学技術の未完成さをまじまじと見せつけられた気がしました。しかし、人間が自然を観察し、それを科学という学問として進めるようになったのは僅か300年ほど前ですし、それに比べて生物はカンブリア紀から数えても5億5000万年前、生物が誕生してから37億年も経つわけです。人間は論理的に考え、過去の蓄積を文字として残すと言うことは能率的と言われていますが、一方、人間以外の生物は頭の働きが十分ではなく、文字もないので過去の知見を活かすことができません。全てがトライアンドエラーだから進歩が遅いとされています。でも、人間の科学も、そのほとんどがトライアンドエラーだし、人間が文字とノートで記録すれば、生物はDNAとコドンで記録します。書き換えの速度も微生物ならかなり速いですし、だから人間が新しく研究するよりも自然を参考にした方が良いのではないか?とも考えてしまいます。

トライアンドエラーが認められない世情で、間違えを発表するとふくろ叩きにあってしまいますが、自然というのはそうやって積み重ねるものだし、ふくろ叩きにする側の人は、研究もした事がないし、当然失敗もした事がない人ばかりなので、仕方がありません。ただ、バッシング人は成功もしていない人が殆どだと思います。

宮田

お申し込みはこちら

お問合わせ・お申込み

お問い合わせ