【9/8】髪の毛を考える

人間にとって髪の毛は大きな関心事です。なんと言っても顔の近くにありますし、髪の毛は顔ではありませんが、顔と同じぐらいその人の印象に影響を与えます。若い女性の黒髪、ヨーロッパ人の金髪、年頃の男性の茶髪、そして年配になると薄くなるのが気になり最後は光ります。それほど重要なものですから、養毛剤を発明したら大金持ちになると昔から言われています。これほど医学や薬学が発達しても、相変わらず手軽でよい養毛剤はないようですし、年配になるとそっと頭を撫でて人生の秋を感じるのであります。

ところで、少しでも自分を良く見せたいという美容の意味ではなく、髪の毛の本来の効用は?と聞くと10人が10人「頭を守るため」と答えます。でも髪の毛はそれだけで頭に生えているのではありません。それなら、もう少し丈夫なものにして「抜けない」ようにすれば「生える」必要も無くなるのであります。そして「なぜ、髪の毛は伸びるのだろうか?」と考えてみますと、体の外に出ているから劣化するのは間違いありません。この世の材料はすべて悪くなります(劣化します)が、髪の毛は、女性なら5年程度、男性の場合、4年です。同じく外側から身を守るための材料として「木の皮」がありますが、これも3年程度ではがれ落ちます。

体の外部に出ている材料は数年でダメになりますから、いつも作り続けなければなりません。根本には毛母細胞というのがありまして、そこで新しい髪の毛を作り、原料は血液です。体の血が毛細管で毛母細胞に流れます。毛母細胞は流れてくる血の中の栄養分を使って髪の毛を作ります。これは簡単な方法です。もし血液中に髪の毛になるタンパク質の原料がいっぱいあって、毛母細胞が元気なら髪の毛はどんどんでききます。しかし年を取ると元気がなくなってしまいます。

ところで、今回の話はここからが始まりです。人間が頭で考えた人工的なものと違って、生物は節約家で巧みですから、髪の毛は毎日作らなければなりません。
毛母細胞が頑張りまして、それが伸びて頭を守ります。それならついでに・・・と生物は考えるのです。

まず・・頭の髪の毛は劣化する。
だから・・毎日、作り続けなければならない。
そして・・古い髪の毛は捨てていく。
どうせ・・捨てるならそこに廃棄物を入れておこう。

という訳であります。髪の毛はタンパク質で出来ているので、原料はアミノ酸が使われます。アミノ酸の中でもシスティンと呼ばれるアミノ酸を使ってタンパク質でできてますから、血液中の水銀やヒ素のような「廃棄物」を髪の毛の中に「くるむ」ことができるのです。これを「二座配位子による金属イオンのトラップ」といいます。髪の毛が水銀とヒ素をくるんで、毛母細胞を出発します。そしてやがて外に出て頭を守ります。しばらくして髪の毛の先端になり、すり切れてパラリと落ちるのですが、その時に体の中の有害元素が取り除けるのであります。大変素晴らしいことで廃棄物を捨てるならこのぐらい巧みでなければいけません。

ところで、髪の毛の不思議を説明したところで、髪の毛にまつわる脱線を3つほどご紹介させていただきます。

第一番目の脱線
ナポレオンがワーテルローの戦いに敗れてセントヘレナ島に流されました。後世になって、セントヘレナ島にナポレオンを流した後、イギリスが恐れてナポレオンを毒殺したのではないかとの疑いが出てきました。なにしろ世紀の怪物だからイギリスも恐れていたのですが、そこでナポレオンの遺髪が登場します。遺髪の分析をしてある時から毒物が検出されれば毒殺と判ります。なぜなら、髪の毛に水銀やヒ素がたまるからです。このような判定方法はナポレオン以外でも使われていますし、また昔の人の髪の毛が残っていると、それから当時の毒物の摂取の度合いを出している研究もあります。

第二番目の脱線
人体から定期的に切り取られるものは髪の毛の他に、爪があります。髪の毛も切るし爪も切ります。それなら、爪にも髪の毛と同じように水銀やヒ素をためようと言うことになります。事実、爪には水銀やヒ素がたまります。そこで、爪が伸びると切られて毒物が体の外に排出されるという仕組みです。今度から爪を切る時には、「ここから水銀やヒ素が出て行くのだな」と思いながら切るとまた感慨があると思います。

第三番目の脱線 「スミス氏の散髪」
スミス氏がある時に散髪に行きました。散髪屋の椅子に座りウトウトしている間に、散髪屋がジョキジョキとスミス氏の髪の毛を切りました。フト、目を覚ましたスミス氏。「私の体は、床に転がっているあの髪の毛なのだろうか、それとも椅子に座っているのが私なのか?」

以上です。

お申し込みはこちら

お問合わせ・お申込み

お問い合わせ